弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン(2012年改訂版)
Guidelines for Surgical and Interventional Treatment of Valvular Haert Disease( JCS 2012)
4 大動脈二尖弁
①疾患および病態,予後の概略
大動脈二尖弁は,成人で最も多い先天性異常と考えられている.有病率は全人口の0.5% から 2%
212)-214)
で,男女比は3:1 で男性に多い.形態的特徴は右冠尖と左冠尖の融合したタイプが多い.最近の研究では,この疾患は単なる弁尖の発生異常ではなく,細胞・遺伝子レベルでの異常を基盤として,大動脈を含めた解剖学的異常が起こっていると考えられている
215)-218)
.
この疾患の予後は一般健常人の期待生存率と比して有意差なく,無症状ならば10年生存率は96%,無症状で弁疾患がなければ,20年生存率は90%と報告されている.一方,幼児期から重篤な弁疾患や大動脈疾患があれば,それらに対する治療が必要である.自然経過に影響を与える合併症には弁疾患(大動脈弁狭窄と大動脈弁逆流),大動脈疾患(大動脈縮窄症,大動脈管開存,大動脈拡大および解離)と感染性心内膜炎がある.
小児期に無症状でも2%程度が青年期までに高度AS,AR1)を来たし,形態的異常によるshear stress が弁の石灰化や大動脈拡大を来たす
219),220)
ことが原因と考えられている.
②診断
身体所見で心尖部の駆出音および大動脈弁狭窄,大動脈弁逆流を指摘され,心エコー図で確定診断されることが多い.心エコー図では収縮期短軸断面で大動脈弁および弁尖の形態で診断することができる.経胸壁アプローチで観察不十分な場合には,経食道アプローチで詳細で的確な診断が可能と考えられている.これらの弁膜症の的確な評価には心エコー図による定量的評価が必要である.また,磁気共鳴画像MRI やCTを上行大動脈や大動脈基部に適用すれば,大動脈縮窄,大動脈管開存や大動脈拡大を診断できる.
1)大動脈弁狭窄
大動脈弁狭窄は二尖弁の合併症として最も一般的である.多くの石灰化は40歳までに出現し,それが病変の進展に影響する.弁尖の部位別比較では,石灰化の増悪や予後に差は報告されていない
221),222)
.また,無症状の二尖弁患者を9年間経過観察した報告では症候性ASに対してAVRが必要となったのは13%であった.
2)大動脈弁逆流
幼少期の症例では,余剰な弁尖や,大動脈弁狭窄に対するバルーン拡張術が原因となる.成人では大動脈基部の拡大も関与していると考えられ,大動脈弁逆流で手術が必要となるのは3 ~ 6%である
222)
.
3)大動脈拡大
上行大動脈の拡大・瘤形成は幼小児期から始まっている.有意な弁膜症がない症例でも三尖弁と比して,弁輪・Valsalva sinus・STJ・上行大動脈ともに拡大してい
る
223)
.無症状の弁疾患のない二尖弁では15%で40mm以上の拡大があり,15年の経過観察で39%で拡大を認めた
221)
.大動脈解離は,二尖弁の致命的合併症として注意すべきだが,コホート研究では年に0.1%以下の有病率
222)
と報告されている.
4)感染性心内膜炎
有病率は年に0.3%から2%と低く,最新のACC/AHAガイドラインでは二尖弁への予防的な措置は推奨されていない
224)
.
③治療
1)薬物的治療
Marfan症候群関連大動脈疾患に対しては,β遮断薬が進行を遅らせるとのエビデンスがあり
225)
,二尖弁でも推奨されている(ACC/AHA guideline class Ⅱ a)
226)
.血管拡張薬は高血圧が存在するときのみ推奨されている
226)
.アンギオテンシンII 受容体拮抗薬(ARB)は動物実験レベルでは有効性が示唆されている
227)
が臨床的エビデンスは明らかではない.またスタチンの投与は推奨されていない
1)
.
2)非薬物治療
大動脈弁狭窄,大動脈弁逆流に対する手術適応は,三尖の大動脈弁と同様
1)
である.しかし,二尖弁は重症度の進行が早く,より若年に手術至適時期が来ることが報告されている(40± 20,67± 16years)
221)
.成人の手術では30%で上行大動脈に対する手術も必要となる
222)
.
上行大動脈に対する手術適応は,弁疾患がなければ直径50mm以上,弁に対する手術が必要なときには直径45mm以上とされている
1)
.
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Ⅱ 大動脈弁疾患
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