弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン(2012年改訂版)
Guidelines for Surgical and Interventional Treatment of Valvular Haert Disease( JCS 2012)
3 大動脈弁狭窄症に対するTAVR(transcatheter aortic valve replacement)の適応
 TAVRはカテーテルを用いて人工弁を大動脈弁位に留置する手技であり,高度大動脈弁狭窄症の治療法として新たに出現した方法である.2000年代初頭よりヨー
ロッパで臨床応用が始まり,またたく間に全世界に広まった.

 現在,最も広く用いられているのは以下の2種類の弁である.

 ひとつはウシ心膜を伸展可能なステントに装着して弁尖としたもので,ステントを折りたたんでバルーンカテーテルにマウントし,通常のカテーテル手技に準じて大動脈弁位まで挿入,バルーンを開大することによって同部位に固定する(balloon-expandable type).大腿動脈(腸骨動脈)からカテーテルを挿入する経大腿動脈アプローチと,第5もしくは第6肋間を切開し心尖部より左室腔に直接カテーテルを挿入する経心尖部アプローチがある.

 もう一種類はnitinol形状記憶合金でできたステントにブタ心膜でできた弁尖を縫着した弁である.零度の生理食塩水に浸けた状態で折りたたみ,専用のデバイスを用いてカテーテル内に収容後,大動脈弁位でカテーテルから出すと元の形態に戻って大動脈弁輪部と上行大動脈の二か所で固定される(self-expandable type).大腿動脈(腸骨動脈)または鎖骨下動脈,最近の報告235)では右小開胸で上行大動脈から挿入されることもある.どちらの方式でも,自己弁はステントによって大動脈壁に圧着されることになる.

 いずれの弁においても初期成績,中期成績は満足するものである.Balloon-expandable typeを用いて米国において実施された多施設共同研究では, 手術不能
(inoperable)と判定された高度大動脈弁狭窄症に対してはTAVR が通常治療(83.8%がバルーンを用いた大動脈弁拡大術)よりも予後が良好であることが示された236).またハイリスクと判定された症例に対してはTAVRと大動脈弁置換術の成績に大きな差はなくTAVRの非劣性が証明された(1年後死亡率はTAVR群24.2%,大動脈弁置換術群26.8%,p= 0.44)237)

 本手法は歴史も浅く未だ発展途上の手技であり,今後もどんどん新しいデバイスが開発されていくであろう.本手技は開心術に比べて低侵襲であるため,今後は大動脈弁置換術の適応であるにもかかわらずハイリスクのために手術をためらわれる症例に適用されていくと思われる.
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