弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン(2012年改訂版)
Guidelines for Surgical and Interventional Treatment of Valvular Haert Disease( JCS 2012)
4 Controversies
 慢性ARの適切な手術時期の決定については現在でも議論のあるところである200),203).高度ARで自覚症状を伴えば手術のよい適応であり,かつて左室LVDs > 55mmかつ%FS<25%の症例は予後不良200)と報告されたが,前述のごとくこの条件に該当しても必ずしも予後不良とは限らないとの意見もある.また,術前のNYHA心機能分類のⅢ,Ⅳ度が独立した術後の予後決定因子であり272),NYHA機能分類Ⅰ,Ⅱ度のより早期の手術が予後を改善する可能性があるとも報告されている204)

 一方,高度ARでも自覚症状のない場合には,一般的には症状が出現するまで安全に待てるという報告もあるが268),最近の報告では無症状で左室機能正常のARにおいて,RVol ≧ 60mL/beat,ERO≧ 0.30cm2,ESVI ≧45mL/m2,が有意な予後不良因子とされている269).症状が出現したときには既に心機能低下が著しく手術時機を逸している場合もあり,これを避けるためにはやはり定期的フォローアップが重要であり,LVDs の拡大や左室収縮能の低下,上述の定量的指標を認めた場合にはたとえ無症状でも手術が勧められる207).無症状のARに対する手術適応については統一的見解が確立していないが,今後はRVol,ERO,ESVI が重要な指標になると思われる.

 なお,これまで手術適応の判定に用いられてきた数値基準は,主に欧米人の男性患者のシリーズでの成績に基づくものであり,欧米人でも体格の小さな女性において前述のDs > 55 mm,EF< 55%の“55ルール”を手術適応の指針とした場合には,その遠隔予後は男性に比し不良であったという報告もあり294),また,LVDs/BSA ≧ 25mm/m2 では,より早期の手術を推奨する報告204)もある.平均的に体格の小さな日本人を対象にした場合,我が国でも欧米で得られた数値をそのまま適用してよいかどうかについては今後も検討が必要で具体的な数値基準はLVDs をはじめ,これをBSAで除した値(LVDs/BSA)の使用についても,我が国でも適切に使用できるかどうかについての十分な根拠はない.

 手術適応を最終的に決定する場合にもうひとつの大きな問題は手術リスクである.当該施設での手術成績も考慮に入れて最終的に手術を決定すべきである.

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