弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン(2012年改訂版)
Guidelines for Surgical and Interventional Treatment of Valvular Haert Disease( JCS 2012)
3 手術成績と遠隔予後
①手術危険率

 初回施行例における手術危険率は一般にOMCで数%以下であるが,MVRではMS病変の程度や患者の重症度が高く大動脈遮断時間も長くなるために5%前後36)とOMCに比べるとやや高率である.また,70歳以上のMVR症例では手術危険率は7% 37),収縮期肺動脈圧が60 mmHgを超える肺高血圧症例や再手術症例では7~10%前後37),41),と報告されている.弁下組織温存のMVRについては,手術危険率が5%と非温存MVRの14%に対し成績良好であったとする報告もある33)が,MSでは弁下組織温存MVRが困難な症例も多く未だ統一された見解は得られていない.患者の背景や主要臓器障害の有無など個々の症例で術式の選択や周術期管理などを十分に検討する必要がある.

②遠隔予後

① OMC
 Sellors分類によるOMC347 例の遠隔成績の検討42)では,術後14年の非再手術率がⅠ型で73.5%,Ⅱ型で88.9%,Ⅲ型で84.0%と各群で有意差を認めず,石灰化や弁下部病変を認めるMSに対してもOMCにより比較的良好な中期遠隔成績が得られたと報告されている.長期追跡調査が施行されている最新の報告43)でも10年,20年,30年の再手術回避率は88.5%,80.3%,78.7%と良好な結果が示されている.一般に遠隔死亡に関連する因子として,高年齢,高肺血管抵抗および弁尖石灰化が,血栓塞栓症に関連する因子では,塞栓症既往歴,弁尖石灰化および可動性の低下が指摘されている44).また,再手術に関連する因子としては,術前弁口面積,弁尖石灰化ならびに可動性,僧帽弁逆流が報告されている.

② MVR
 MVR後,人工弁が正常に機能している限り僧帽弁の狭窄は解除され,肺循環を含めた血行動態が改善し自覚症状も軽減される.MVRの遠隔成績は,人工弁の耐久性や人工弁関連の合併症,抗凝固療法のコントロール,肺高血圧・左房拡大・心房細動・右心不全といったMS関連の血行動態異常,等に影響されるが,通常,適切な抗凝固療法や外来follow-upが行われていれば悪くはない.MVR術後の生存率に影響する遠隔期の合併症として,脳梗塞,心筋梗塞,全身血栓塞栓症,血栓弁,脳出血,消化管出血,人工弁感染性心内膜炎,不整脈ならびに心不全などがある.

③その他
 最近のPTMC,OMC,MVR の術後7年の遠隔成績に関する比較検討45)では,各々の生存率は95%,98%,93%と差がなかったが,再手術回避率はOMC,
MVRで各々96 %,98 % とPTMCの88 % に比し, また,NYHA心機能分類はOMCが平均1.1とPTMCとMVRの1.4に比し有意に良好であった.また,手術死亡はPTMC,OMCで0%,MVRで1.6%とMVR症例に重症例が含まれているにもかかわらずいずれの手術成績も良好であり,僧帽弁の病態に応じた術式の選択により良好な手術成績と遠隔成績が得られることが示されている.
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