弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン(2012年改訂版)
Guidelines for Surgical and Interventional Treatment of Valvular Haert Disease( JCS 2012)
1 病因と病態
 三尖弁膜病変には三尖弁逆流,三尖弁狭窄,先天性三尖弁閉鎖不全症があるが,器質的に生じることは稀で多くは機能的に生じる.三尖弁疾患は血行動態的には狭窄と逆流に分けられるが,正常三尖弁に機能不全が生じると,その結果,血行動態異常はほとんどが逆流を示す.これは収縮期,拡張期の右室圧上昇,右室腔拡大,三尖弁輪拡張と同時に起きる.

①三尖弁狭窄(tricuspid stenosis: TS)

1)病因
 TSの原因は大部分がリウマチ性で,単独に存在することは極めて稀であり,僧帽弁膜症に合併することが多い.リウマチ性三尖弁障害により通常は狭窄症と閉鎖
不全症の両方が生じる.

2)症状と身体所見
 拡張期に右室への流入障害が生じるため,右房圧・静脈圧は上昇し,食欲不振,嘔気,嘔吐,肝腫大による右上腹部痛が出現し,また低心拍出量のため易疲労性が出現する.身体所見としては,頸静脈怒張,肝腫大,腹水,浮腫などが認められる.聴診所見は,三尖弁開放音,吸気時に増強する前収縮期および拡張中期雑音である.

3)頸静脈波
 洞調律では,右房収縮に伴うa波の上昇が著明でy谷は緩徐となる.右房の拡大により心房細動を生じると右房圧はさらに上昇する.

4)心エコー検査

 断層心エコー法で三弁尖のエコー輝度増強と可動制限,拡張期ドーム形成,右房の拡大などが重要な所見である.三尖弁逆流の合併について,カラードプラ法によ
り評価を行う(後述).また,連続波ドプラ法を用いて三尖弁流入血流速度波形を計測することにより,僧帽弁狭窄と同様に右房─右室圧較差を推定することが可能で
ある.

②三尖弁逆流(tricuspid regurgitation: TR)


1)病因
 三尖弁は僧帽弁に比べcoaptation zone の幅が狭く,また右室圧が低くtightな閉鎖を必要としないため,軽度のTRは健常者にも高率に認められる.TRの発生機序
として最も一般的なものは,左心不全と肺高血圧の合併,あるいはどちらかに続発する右心室の拡張または右心不全,心房細動による二次性(機能性)のものである.一次性TRは頻度は少ないが,原因としてリウマチ熱,感染性心内膜炎,カルチノイド,外傷,Marfan症候群,三尖弁逸脱,エプスタイン奇形などにより生じる.

2)症状と身体所見
 臨床的には中等度~高度TRを検出することに意義がある.自覚症状はTSと同様,右心不全症状が中心である.聴診上,第4肋間胸骨左縁で最強の全収縮期逆流性雑音を聴取し,吸気時に増強,呼気時に減弱する(Rivero-Carvallo徴候).重症例ではTR 雑音を欠く場合があり注意が必要である.

3)頸静脈波
 高いv波とそれに続く急激なy 下降が特徴的である.

4)心エコー検査
 心エコー法は,三尖弁の構造・運動を評価し,弁輪の大きさを測定,さらに三尖弁機能に影響し得る他の心臓異常を検出するのに有用である.器質性の場合,弁尖の収縮期逸脱,疣贅,切れた腱索などが認められる.機能性逆流の場合にはこのような器質的病変が見られず,中等度以上の逆流の場合には三尖弁輪の拡大や三尖弁尖の収縮期離開を認める.TRの診断はカラードプラ法により収縮期に三尖弁から右房へ逆流するジェットによりなされ,重症度評価にカラードプラ法による半定量評価法が一般的に用いられている.日常的によく用いられる方法として,右房を3 等分し,逆流ジェットの到達度によって重症度を評価するものである.逆流ジェットが右房内三尖弁側1/3以内にある場合を軽度,2/3までを中等度,それ以上を高度とする.

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