弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン(2012年改訂版)
Guidelines for Surgical and Interventional Treatment of Valvular Haert Disease( JCS 2012)
3 成績
 熟練した術者が施行する場合,PTMCの技術的成功率は98%以上であり,これにより平均左房左室間圧較差は術前12~ 13mmHgから術後3 ~ 6mmHgに,弁口面積は1.0~ 1.1cm2から1.9~ 2.0cm2に増大する.また通常,心拍出量も1 割程度増加する23).急性期の血行動態はPTMCと外科的交連切開術との間に有意差は認められていない.また合併症発生率も外科手術と比べて大きな差はなく,Inoueらの981例の経験によれば,主な合併症は高度MRの発生(2.5%),塞栓症(0.3%),心タンポナーデ(1.1%),心房中隔欠損残存(11.0%),であり死亡例はなかったという.なお心房中隔欠損残存はほとんどの場合,軽度であり,また大半の例で次第に縮小していくことが知られている.一方,米国の国立心肺血液研究所(NHLBI)による738例の全国集計によれば,高度MRが3%,塞栓症が3%,心タンポナーデが4%,死亡率が3%といずれも高めであり,施設や術者の熟練度が合併症発生低減に重要であることがうかがえる.実際,NHLBI の報告でも25例以上の経験を有する施設では合併症の発生が少ないという19),24).したがってPTMCは経験豊富な施設で熟練した術者により施行されなければならない.

 PTMC直後の成否の予測因子には,上述の僧帽弁形態のほかに年齢,外科的交連切開術の既往,NYHA心機能分類,高度狭窄,MR,洞調律,肺動脈圧,高度TR,バルーンサイズなど種々報告されている25),26).しかしこれらの因子は感度はよいが特異度は低く,現実にはPTMCの成否を正確に予測することは簡単ではない.PTMC施行後3 年から5 年程度の長期成績は弁形態やNYHA心機能分類,年齢,開大後弁口面積などに依存し,これらが良好な群では経過は良好であり,また生存率も5年で93%と良好である19).弁に石灰化を有する例や,弁尖の肥厚が強い例,弁下組織の変化が強い例では再狭窄発生率が高くなる27).また879例を平均4.2±3.7年にわたって観察した研究では,PTMCの長期予後の規定因子は, 弁形態, 心機能,NYHAクラスであり, 術前Wilkinsエコースコアが8点以上,高齢,外科的交連切開術後,NYHAIV度,術後肺高血圧,術前MR二度以上,術後MR三度以上は心事故( 死亡, 僧帽弁手術, 再PTMC)の危険因子である28)
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