弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン(2012年改訂版)
Guidelines for Surgical and Interventional Treatment of Valvular Haert Disease( JCS 2012)
病歴,理学的検査,胸部X 線,心電図,心エコー
自覚症状
Af,塞栓症の既往
OMC または
MVR を考慮PTMCを考慮
左房内血栓
MR≧2 度
運動負荷心エコー試験
軽度狭窄症
MVA>1.5cm2
PAP>60mmHg
圧較差>15mmHg
中等度または高度狭窄症
MVA≦1.5cm2
なし
なし
いいえ
はいいいえはい
他の原因を探す
あり
あり
弁形態がPTMC に適切
病歴,理学的検査,胸部X 線,心電図,心エコー
運動負荷試験
OMC
またはMVR
PTMC を考慮
(左房内血栓,MR3 ~ 4 度を除く)
弁形態がPTMC に適切
軽度狭窄症
MVA>1.5cm2
中等度~重度狭窄症
MVA≦1.5cm2
はい
はい
はい
PAP>60mmHg
圧較差>15mmHg
いいえ
いいえ
いいえ
他の原因を探す高リスク手術の適応
①歴史的背景
MSに対する外科的治療は,1948年にBaileyら,Harkenらが“閉鎖式”僧帽弁交連切開(裂開)術(closed mitral commissurotomy: CMC)に成功したのを契機に全世界で広く行われるようになった.CMCは,手指を左心耳より心腔内に挿入して,用指的にあるいは拡大器を用いて“非直視下”に癒合した僧帽弁交連部を裂開し弁口を拡大する術式であり,その後人工心肺装置が開発され,開心術が可能となった後も一定期間MSに対する標準術式として用いられた.しかし,僧帽弁の解剖学的形態によってその手術成績・遠隔成績が左右されることより,1970年頃からは我が国でも直視下交連切開術(open mitral commissurotomy: OMC)を第一選択術式とする施設が多くなり,現在,先進国ではCMCはほとんど行われなくなった.OMCでは直視下に僧帽弁を観察し,交連切開に加えて病変に応じて腱索切開や乳頭筋切開,石灰化部分の除去などを行うことができ,MSに対する基本術式として良好な遠隔成績が報告されている
29),30)
.OMCで対応できない病変に対しては僧帽弁置換術(mitral valve replacement: MVR)が行われるが,有効弁口面積の広い二葉弁の開発や耐久性の向上した生体弁の開発などにより良好な遠隔予後が期待されるようになった.バルーン付カテーテルを用いた経皮的僧帽弁交連裂開術(percutaneous transvenous mitral commissurotomy:PTMC)は1980年代に登場
16)
し,その低侵襲さとデバイスの改良により広く普及されるようになったが,その応は概ねCMCに合致する.PTMCついては前項に記載されているので,ここではその詳細は述べない.
②手術適応と手術時期(図1,2)
ここで扱うMSまたはMSr(軽度逆流を伴うMS)は基本的にはリウマチ性の病変である.手術適応を考える上で,(a)NYHAⅡ度以上の臨床症状,(b)心房細動の出現,(c)血栓塞栓症状の出現の3点が重要である.一般的に弁狭窄が中等度以上(僧帽弁口面積≦1.5 cm2)になると流体力学的に左房から左室への血液流入障害が生じるとされ,労作時に左房圧の上昇に基づく臨床症状(息切れ,呼吸困難感)が出現するようになる.また,左房拡大,心房細動発作,肺高血圧などの所見も認められるようになる.血栓塞栓症のエピソードで本症の存在が初めて気づかれるといった場合もある.弁狭窄がさらに高度(弁口面積≦1.0 cm2)になると安静時にも左室への血液流入が障害されるようになる結果,症状は重症化し,肺鬱血・肺高血圧や心房細動は固定化する.さらにTRが加わり,肝腫大・腹水など右心不全の徴候が認められるようになり,終末期には心臓悪液質を来たす.
MSに対する外科治療は従来,手術に伴うリスクや手術の効果を考慮し,上述のような臨床症状・所見の出現を待って行うのが基本と考えられてきた.しかしながら,PTMCの普及や開心術の成績が向上した今日では,術後の洞調律の維持や血栓塞栓症の防止,肺高血圧や他臓器不全の予防,と言った観点から,従来より早期に外科的治療を行うことも考慮されるようになってきている.NYHA心機能分類の悪化や運動耐容能の低下に加えて,心臓エコー検査で左房径の拡大,弁口面積の経時的狭小化,運動負荷時の肺高血圧,心房細動発作の出現は手術適応を考慮する指標となる.
左房内血栓も手術適応の指標となる.血栓の付着部位は左房壁,左心耳内,心房中隔,僧帽弁,僧帽弁弁輪部または肺静脈内などである(稀に球状血栓が形成されることがある)が,断層心エコー上少なくとも2方向から描出し,さらに経食道心エコー法,胸部CTにより,その存在ならびに形態を確認する必要がある.手術の適応となる左房内血栓は,一般に(a)ボール状血栓,(b)大きな血栓,(c)可動性を持つ壁在血栓,および(d)肺静脈を圧迫する壁在血栓などである.
1 外科的治療の適応
図1 NYHA心機能分類Ⅰ・Ⅱ度のMSに対する治療指針
図2 NYHA心機能分類Ⅲ・Ⅳ度のMSに対する治療指針
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3 僧帽弁狭窄症に対する手術適応,術式とその選択
> 1 外科的治療の適応
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