弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン(2012年改訂版)
Guidelines for Surgical and Interventional Treatment of Valvular Haert Disease( JCS 2012)
1 高度または散在性・部分的石灰化
2 上行大動脈壁厚≧3mm
3 大動脈壁の潰瘍形成,内腔へ突出した粥腫(プラーク)
など
2 上行大動脈の動脈硬化性病変
(表41)
 上行大動脈の石灰化や粥腫硬化を伴う症例では,大動脈遮断や送血管挿入によってシャワー塞栓や大動脈解離を生じることがあるため,その性状には十分に留意しなければならない.このような患者は頸動脈/頭蓋内動脈や腹部大動脈にも動脈硬化性変化を伴っている場合が多い402)

 上行大動脈の動脈硬化性病変の検索には,術前検査として胸部CT検査や経食道心エコー検査,さらに術中エコー検査が特に有用である403),404).上行大動脈の動脈硬化性病変は次の3つのタイプに分けられることがある.Type 1 全周性陶器様石灰化,Type 2 高度粥腫病変,およびType 3 大動脈壁内ペースト状動脈硬化性病変である405).Type 3 の変化は術中エコー検査でも検出が難しいことがあり,送血管挿入や大動脈切開を行って初めてわかることも多く,したがって術後debrisによる脳合併症の発生はこのタイプのものに比較的多く認められる.

 術中エコー検査で,上行大動脈に3 mmを越える壁肥厚や部分的な石灰化,粥腫の突出などが見られる場合には,送血管挿入を比較的正常な部位に移動したり,腋窩動脈や大腿動脈に変更するなどの対策がとられる406).最近では前者が送血部位に選ばれることが多い407),408).心筋保護液は逆行性に注入することが推奨される.大動脈遮断の部位も比較的安全な部位に移動する必要がある.

 上行大動脈の動脈硬化性変化が高度の症例では,大動脈遮断は行わずに超低体温循環停止や中等度低体温心室細動のもとに弁置換術,弁形成術を行うなどの方法が報告されている409).最近では,中等度低体温循環停止下に大動脈内を検し,必要と判断されれば石灰化あるいは粥腫をデブリドマンした後に遮断する手法も報告されている410).その際に人工血管による上行大動脈置換も同時に行い,比較的良好な手術成績,遠隔予後が得られたとする報告も散見される409),411),412)
表41 開心術に際して注意を要する上行大動脈病変
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Ⅴ その他 > 4 他臓器障害(危険因子)を有する弁膜症患者の手術 > 2 上行大動脈の動脈硬化性病変(表41)